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分とく山

日本料理の品格と工夫

CUISINE / JAPANESE

日本料理の品格と工夫

丁寧な仕事を徹底し、日本料理の感動を伝える。時代に合わせて進歩を続ける料理には、細やかな心くばりが感じられる。

直前仕事の徹底

日本料理の感動を伝えるため、移転後に野﨑氏がいっそう強化、実践しているのは、「直前仕事を徹底すること」。例えば、蒸しアワビと生ノリの一品も、アワビは客が口にする時間から逆算して、蒸して冷ましたものを盛り付ける。とうもろこし豆腐に盛り込むエビも同様に、しっとりとゆで上げ、冷ましたものを盛る。「一度でも冷蔵庫に入れると風合いが落ちる」のだという。

 

できたてを提供するには時間のコントロールが必要。料理店ではなかなか難しいことだが、「そうした基本的なことに丁寧に向き合うのが、本当のおいしさにつながるのです」と話す。一見、熱々の料理ほど作りたてが重視されそうだが、冷たい料理こそ、素材の持ち味をはっきりと表現することが大事だ。

「人が味を感じるのは10℃〜70℃。冷たくしすぎても、味がしなくなってしまう。なので、うちはいわゆる“冷たい一品”も生温かいくらいの温度でお出ししています。その分、見た目で涼感を表現するのです」

 

写真はトウモロコシと豆乳をゼラチンで寄せた「とうもろこし豆腐」が主役の一品。ゆでエビ、そうめん、キュウリなどとともに盛り付け、旨だしをかける。赤、黄、緑、白の彩りが鮮やか、かつ四角い豆腐と丸いエビのコントラストも楽しい、涼やかな印象を与える。

淡味こそ贅沢

鉢にたっぷりの氷を盛り込み、そこにのせたガラスの器も涼しげなアワビの料理は、一気にテーブルに涼をもたらす一品。ただし主役のアワビはもちろん、3種類のたれも冷やしすぎない。ちなみにたれはトマトつゆ、胡麻だれ、胡麻加減酢の3種類。どれも、そのまま飲めるほどの控えめの味つけだ。「淡味ほど、贅沢なんです」と野﨑氏。ほどよい温度で、本来の旨みが豊かに感じられるアワビ。磯の香りが立つ生ノリ。涼感をたたえながらも、それぞれの個性が際立つ味つけで仕立てる。

 

「夏のアワビというと生のまま冷やし、大ぶりの角切りにしてお出しするのがかつては定番でした。でも、あれは固くて歯の弱い方は食べられない。それで、今回は蒸しアワビにしています。蒸す時間は20分。これも日本料理の世界では、長らく『アワビは5時間蒸す』なんて言われていましたが、あれは、『新鮮なものは生で。鮮度が落ちたら加熱』という冷蔵庫のない時代の習慣が残っているだけ。鮮度の落ちたアワビだから長時間加熱しないと柔らかくならなかった。今は『鮮度のよいものを加熱して、さらに味を上げる』ということができる贅沢な時代なのです。それを楽しみましょう。それに5時間も蒸したら風合いが消えてしまう。時代に応じた最適の調理を考えるのが料理人。教わったままを繰り返すのではなく、日本料理の品格を保ちながらも、工夫をしてこそ、です」

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